1月3日 成田空港からNY到着。そして時差ぼけに苦しむ。
出国審査も終わりゲートの前で時間をつぶす私とMARU。鉛筆とメモ帳を取り出して何かをこちょこちょ書いていたり、通る人を観察しながら30分は過ごしただろうか。
30分座っていられるなんて5年前には思いもしなかった。ホント大きくなったものだ。あと2年もしたら4年生。で、10才。10才の子どもがいるというとすごーく大きな子どもがいるような気がしてしまう。MARUが10才の時、私は35才。年のことを思い浮かべるなんて私も老けたな、などと開いただけで全く頭に入らない生命保険講座の試験用テキストを膝に乗せたまま、私は焦点の定まらない目でぼーっとMARUとその周りを見つめていた。
M「そろそろ入れる?」
志「ああ、そうね。」
子ども連れの人から飛行機に搭乗出来るのは助かる。人が少ない内に荷物を片づけて座れるという余裕が、ただでさえ子どもと一緒というピリピリ感が薄れさせてくれるので。
席に着くと早速自分の環境整備に励むMARU。すぐに出すオモチャは足下に。靴を脱いで膝掛けを足にすっぽりとかけて、イアホンを取り出し放映される映画を確認する。どのチャンネルでどの映画なのかまで一通り確かめると安心したようで、イアホンを外し肘掛けに手を肘をついて他の乗客を観察し始める。
離陸、着陸時の耳鳴りも全くなく、飽きたら映画を見て、終わったら眠り、機内食は「合わない」と手をつけず、マイペースにニューヨークまでの12時間を過ごすMARU。その横で私は試験勉強。一言もぐずらずウキウキしてはいるが東京の家で両親と過ごしているときのような吉本系のバカ騒ぎもせず、至ってマイペースに楽しげに過ごすMARUを見て、与えられた環境を楽しむ力が強いなあと関心した。
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ニューヨークは10年ぶり。10年ぶりのJFK空港は綺麗になっていた。ただ、飛行機を降りてから出口までやたらと長く、「道を間違えたんじゃないの?」とMARUが心配するほど。
9月11日後に初めて合衆国本土に上陸したわけだが、入国審査は思ったよりも厳重になっていた。
指紋もとられるが、MARUがニコニコと審査官に話しかける(日本語なのだが、なんだか会話になっているのがすごい)と審査官もニコニコ顔で応対してくれる。それだけで他の人より審査が早くに終わる。子どもがいると助かる。どこの国でも子どもに優しいらしい。
荷物が出てくるのを待っていると、ちゃっかりカートをMARUが持ってくる。そして荷物が出てくる口の近くに陣取り、しっかりと見張っている。さっさと自分の荷物を取り、私のは大きくて下ろせないから走って私に知らせに来る。「来たよ!」
税関も通り抜け、出口を出るとすぐタクシー乗り場だ。10年前はあまり綺麗とは言えないタクシー乗り場で、怪しげな客引きがたくさんいたからオレンジ色の正規の誘導係を目で捜して慌ててそちらに向かっていた。が、今回はそういう客引きもいない。また、タクシー乗り場も分かりやすく、並んでいると誘導係が「どこまで?」「シティ(マンハッタン)なら一律40ドルよ」などと教えてくれる。まったく緊張せずタクシーに乗り込み、ホテルの場所を伝えて一息つく。いくらMARUとの二人旅に慣れているとはいえ、やはり子どもがいると安全を無意識の内に身体全体で意識しているのだろう。タクシーに乗った途端、どっと疲れが出てきた。
飛行機は酔うことないのだが車に弱いMARUはごろんとなって目をつぶっている。
運転手に渡す紙幣を用意しながら鞄をごそごそとしていると成田空港で借りた携帯電話が目に入る。ああ、設定しとかなきゃ、東京の両親に連絡いれとかないとまた心配するから・・・と考えながら、日本では結局連絡出来なかったマンハッタンに住む幼なじみのAちゃんに電話をかけてみる。
長いコールの後、相変わらずテンションの高い可愛い声で彼女が電話に出る。10年たっても人間そうそう変わらない。いや、こういう元気なところは変わって欲しくない。
会う約束をして電話を切り、窓の外を見る。
志「雨降ってるね。」
むくっと起きあがり窓に手をかけて外を見るMARU。
M「ニューヨークは暗いね。」
アメリカの公道は電灯の色がオレンジ色のため、日本よりも暗く感じるのかもしれない。
車は進み、橋を渡る頃にはマンハッタンのにょきにょきとそびえるビル群が見えてくる。相変わらず人工的な島だ。世界中から人が集まる街。世界中の食べ物と言語と文化とお金が流れる街。
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母「いったい、ニューヨークにMARUと何しに行くのよ。」
ニューヨークに行くことを出国する5日前に決め、母に伝えた時に言われた。直前に決める私に以前は母はぶつぶつ言っていたが、この子は何言ってもこういうペースなんだと諦めたのか今回は何も文句を言わない。でも、一言だけ言われたのが「何しに行くの」だった。
志「んー、なんにもしない。なんにもしないと思うよ。ぷらぷらと散歩してね。絵とバレエだけは見たいかな。」
母「MARUが楽しめることあるかしら。」
志「一緒に過ごすだけでいいんじゃないの?いつも一緒にいないから、話をひたすら聞こうと思うのだけど。」
その私の言葉で母はもう何も言わなくなった。
母「いくら安全になったとはいえ、ニューヨークはニューヨークなんだから、MARUの手を離さないでね。地下鉄を使わないでよ。車で全部移動すること。」
志「はーい。気を付けます。」
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一昨年の年末から年始にかけて2週間、バリ島にMARUと二人で行った。12月26日。その日、しんのすけの家で餅つき会があったのだが、みんなが額に汗して餅つきをしている頃、私とMARUは成田空港で搭乗を待っていた。
さあ搭乗しようかというまさにその時、電話が入る。
母「今どこ?」
志「これから搭乗しようと思っていたところ。」
母「今ね、速報でインドネシアで大地震が起きたと流れているわよ。飛行機飛ばないんじゃないの?やめたら?」
志「確認して折り返し電話するね。」
航空会社の人と話すと、まだ地震の被害状況は分からないがバリ島への飛行機は無事に到着しているとのこと、私が乗る予定の飛行機も時刻通りに飛ぶこと、インドネシアは大地震とニュースが入っているがバリ島は何も言われていないことなどを聞く。
志「あー、ママ?飛行機飛んでいるみたいだからこのまま行くことにした。向こうの状況次第で帰るかもしれないけれど。」
母「・・・そう。気を付けてね。」
結果的に地震はスマトラ島より東を襲い、西にあったバリ島は難を逃れたため2週間を過ごすことが出来た。だが、向こうについてからそれまでのストレスが身体に現れ、また嘔吐と熱にうなされたため日本に連絡が出来ず、両親にはかなり心配をさせてしまったらしい。旅行中はPCに触らないことにしているので、日本に帰ってから色々な人に心配をかけていたようで申し訳ない・・・。
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・・・去年の冬休みはそんなことあったよねーと考えながら、Aちゃんの電話の後、青山に電話をする。・・・がかからない。長いコールの後、留守電だ。ニューヨークは夜7時。日本は朝9時。父でも送りに行っているのだろう、とあきらめて電話をしまう。
窓の外は街並の中。
マンハッタンだ。
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ホテルに着き荷物を片づけて一息つくとお腹が空いてきた。そういえば機内で何も食べてない。
志「ご飯食べる?」
M「お腹空かない。」
ホテル内のレストランがまだ開いていたので席につく。気のいいおじさんがMARUにかまってくれる。赤ワインとジュースを頼み、MARUとメニューを相談するが、いつものように「マルゲリータのピザだけ」。それじゃあ栄養が・・・とカラマリとシーザーサラダも頼む。出てきた料理はまあまあ。カラマリは美味しかった。イカを唐揚げにしたカラマリに思いのほか喜びぱくぱくとMARUは食べる。イタリアンに行くとピッツァ・マルゲリータしか食べないが、気に入った料理が増えて良かった。
食べながらもMARUはずっと話続ける。
学校の友達の話、児童館の話、バレエの話。友達にからかわれたとか、MARUをめぐって友達間で取り合いになって困ったとか、そんな話をうん、うんと私は聞きながら2杯目ワインを頼み、ずっと聞いている。
ひとしきり話をして満足したのか、突然、「もうごちそうさま。さ、お部屋に戻ろう。」としきる。「あの・・・まだ飲み終わっていないんだけど。ご飯もママはまだ食べてるし。もう少し付き合ってよ」。急に暇そうにしだすMARUに今度は私の話をしたり、今までのMARUの話に質問をしたりするが、待つのにあきあきしている様子が著しくなり、私もあきらめて席を立つ。
『けっこう理解してくれて楽だなと思ってたけれど、やっぱり子どもよね~』
と私は思うが、部屋に帰ることが出来て嬉しそうにしているのを見ると苦笑いになる。
入浴後、時差ぼけのため寝付かれないMARUをなんとか寝かしつけ私は試験勉強にとりかかるが、頭がぼーとして集中できない。勉強をあきらめて布団に入るが、時差ぼけがひどくまったく眠くない。目をつぶりながら昨年のことを思い出し、うとうとするがすぐに目が覚める。
「ふ~・・・」
2時に眠ることをあきらめた私はガイドブックをぱらぱらと見る。明日から何しようかな~、まずスーパー行って果物買おう。なんて考えていると、MARUが「ママ起きてるの?」とムクッと起きあがる。時差ぼけで眠れないらしい。
2度目のため息をつきながらあやすが、目がぱっちりと開いたMARUはもう眠りの国から遙かに遠く、「まだ朝じゃないの?お腹空いた。」とのたまう。
もうそれから7時までは「朝になった?お腹空いた。」「まだ朝じゃありません。お腹空いたのは昨日あまり食べなかったからでしょ。」の繰り返し。何度となく同じ言葉を繰り返し、同じ返事をもらってもあきらめずにまた同じことを聞くMARUに「もうこの話は終わり。朝はまだ先。昨日は着いたのが夜だったのだからお買い物行けなかったでしょ?ご飯は7時まで待ってください。」と言い渡す。
しぶしぶ入浴するMARU。入浴は大好きなのでこれで時間をつぶせそうだ。たっぷり1時間も入って、指がふやけてしわしわになった頃、ようやくMARUは頭にタオルを巻いて出てくる。いつの頃からか、入浴後は頭にタオルを器用に巻くようになった。
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そんなこんなで時間をつぶすことにも飽きた頃、やっと日が昇り始め、外を歩く人の数が増える。 着替えて朝食を食べに出かける。たっぷりのココアと食事を食べて満足したMARUは今日も元気だ。
M「今日何するの?どこ行くの?」
志「公園いって船乗ろうか?」
NY最初の昼はアメリカ合衆国の象徴、自由の女神を見に行くことにした。
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